オーディオ評論家の山本浩司先生にインタビューさせて頂きました。
山本浩司先生インタビュー
2009年12月11日 山本先生御宅
今回、リアルサウンドラボ社の音響パワーイコライザ「APEQ-2pro DIO」をご自宅の リスニングルームに導入頂いているオーディオ評論家・山本浩司先生のご自宅を 訪問し、「APEQ-2pro DIO」及び音響パワーイコライザ技術「CONEQ」について インタビューさせて頂きました。
1.CONEQ導入について
初期にReal Sound Lab USA(以後RSL USA)の朝日さんから「凄く面白いイコライザを 見つけたよ」と連絡を頂いたのが始まりですね。もう2年前になりますね。
その後、朝日さんが来日した際に、滞在されていたホテルの部屋で、ペアで8千円ぐらいの パソコン用の小型スピーカで効果を試聴させてもらって、ON/OFFで凄い違いがわかった。 確かに劇的に音が改善しました。
音質の改善にも驚きましたが、その際にこのCONEQという技術が面白いと思ったのは、 スピーカ前面の”面”を測定してそのデータを基に補正を行うという事ですね。 このイコライザが実現出来るプロセッサー(APEQ-2pro)が入荷したら一度自宅で使って 見て下さいと提案してもらって、それから使用させてもらいました。
2.他の一般的な音場補正のイコライザについて
私は仕事上AVレシーバに搭載された自動音場補正の技術というのはいろいろ テストしましたので、基本的にはそのほとんどが「リスニングポイント1点における テスト信号を拾うことで測定を行い、そのリスニングポイントでの音圧周波数特性の 補正を行う」という点においては共通しているという事は良く分かっていました。 もちろん、中には数点の複数位置で測定したデータに基づいたものもいくつか ある事も知っていますが、基本的な概念としては同じかなと思っています。
その考えは非常に分かるのですが、しかしながら、その部屋の伝送特性というのは マイクの位置が数センチずれただけで、まったく変わってくる訳で、実際にはマイクの 位置を上下前後に10cm動かしたら結果はまったく異なってきます。つまり、「その測定 結果をはたして本当に信じてよいのか?」という疑問を以前からずっと感じていました。
実際、そういった一般的な音場補正イコライザを使ってみて音を聞いてみても、 聴感上、どうしても「過補正」、「補正が過ぎる」という感じが凄くするんですよね。 周波数特性をいじる訳なので、エネルギーが減衰していく方向に聴感上感じられて、 まあ音が整ってくるのは分かるのですが、音のエネルギーが物足りなくなる。
私は音のエネルギー感とかダイナミズムを重視して音楽を聴くのが好きなタイプ なので、「いくら音が整えられたとしても、音に元気がなくなるなら使いたくないな」と 思っていました。
そのような背景もあり「イコライザって結局こういうものだよね」と思っていまして、 そういう自動音場補正技術を使うことによっていくら音が整えられたとしても、私は 少々音が暴れても、元気な方がいいなと思っていました。
3.CONEQのスピーカ補正
それら一般的なイコライザ技術に対して、CONEQはスピーカから発せられる 音響パワーの周波数特性を補正していこうというまったく新しい概念のイコライザ 技術な訳ですね。この点は非常に面白いと思いましたね。
無指向性マイクをスピーカの前でぐるぐる動かしながら測定しているのを最初 見た時には斬新過ぎて驚きましたけど(笑)。まあ、それをもってスピーカの前面を 400ポイント測定する。 つまり、そのデータを基にスピーカから放たれた音響パワーを整える事が出来る。
部屋の伝送特性というのは、自分で部屋をいろいろ調整していけば変わってくる訳で、 まあ本当に深刻で難しい場合は別として、ある程度まで改善出来ます。故に、ルーム イコライザではなく、むしろスピーカから放たれる音、しかも音圧ではなくて音響パワーの 周波数特性を補正するというのは、新しく正しいアプローチだと思う訳です。
4.デジタル版プロセッサ「APEQ-2pro DIO」
実際にCONEQのプロセッサ「APEQ-2pro」の1号機を使ってみると、音のモヤモヤ感は 一掃され、整えられてすっきりした感じになりましたね。このON/OFFの違いは大きかった。
ただ一方、重箱の隅をつつくような話ですが、このアナログ入出力専用バージョンの プロセッサを通すと、私には少しS/N感が物足りない感があって、あまり理論のみを頭の 中だけで考えてはいけないのですが、やはりCDの音を一度アナログにして、さらに AD/DAするということをせず、純粋にデジタル出入力で音を聞いてみたいという気持ちは ありました。
そんな話をしていたら、何とデジタル出入力のプロセッサが発売されるという 連絡を頂きました。紹介頂いたのは今年の夏でしたね。正直な話、一般的に海外の メーカーというのはリクエストしても、まあいろいろ難しい面もあって結構動きが遅い 傾向があったので、随分早く実現したなぁと思いましたよ(笑)。
現在はこのデジタル出入力バージョンである「APEQ-2pro DIO」を使わせて もらっています。ABS/EBU端子のみという事ですが、私のCDプレイヤーは ABS/EBU搭載なので問題はありませんでした。
アナログ版プロセッサで少し気になっていた若干のS/N感の劣化というのは 無くなりましたね。さらなる音質向上が明らかに認められました。
音響パワーの周波数特性だけではなく、FIRフィルタを使って位相特性も そろえる。これもこの技術の魅力だと思いますね。これを通すことによって、 音像の定位がすごくシャープになり、音場感つまりステレオ感がクリアになり、 音の立ち上がり、音の明瞭感が明らかに改善されました。
5.PDカーブの提案
もう一つ感心したのは、PDカーブの提案ですね。自分のメインシステムは JBLの「K2/S9800SE」という15インチウーファーにコンプレッション・ドライバを 組み合わせた大型ホーン型スピーカですが、CONEQを通してフラットにすると、 聞きなれている自分の好きな音に対して音の整い感は良くなるけども、聴感上 低域が少しスリムになり過ぎて、高域が若干うるさくなる感じがありました。
これはどちらかというと好みの問題で、もちろん録音された正しい音としては、 フラットで聞く音なのかもしれない事は承知していますが、私にとっては若干高域が 強い感じがしました。
それについてRSL USAの朝日さんにもお伝えしたところ、部屋の平面音場や 拡散音場などのルームアコースティックを考慮した「PDカーブ」というターゲット カーブを提案頂きました。それを聞いてみると、若干ですが唯一気になっていた 高域の質感がすっかり解消しました。
そして、今日そのPDカーブに加え、さらにRSL USAの朝日さんが検討した 高域と低域にそれぞれ異なるシェルフを加えた新たなカーブを聞かせてもらい ましたが、これはMuch Betterでした。その音を聞いて非常に自然な感じがしました。
とにかく耳なじみの良い音、聞き味の良い音になりました。音を評価する際には、 音像の定位とか、ステレオイメージの豊かさ、ダイナミック・コントラストとかある訳 ですが、それらの点についてはもちろんOKで、唯一気になっていた高域の件に 関してもほぼ解決しましたし、低域が若干すっきりし過ぎていた感もなくなって、 自分が好きな音にドンピシャでした。RSL USAの朝日さんには私の好みを 読まれているのかな(笑)
プロの現場であれば、フラットを持って良しとするのは当然。録音などの音を 作る現場で、いろんな色づけされた変な音でモニターしていたら、これは大問題な 訳なので音響パワーの周波数特性を完全にフラットにするというのは理解出来るし 賛同しています。
一方、自分たちのような「再生」の場(ハイエンドオーディオの世界)で、単純に フラットを追求するのは幼稚だと思っています。でたらめな音はもちろん駄目ですが、 究極的には自分たちの好みの音で聞ければ良い訳で、このように突き詰めた カーブで好きな音を聞けるのは素晴らしい。CONEQを通すことで、ベストサウンドに 近づいてきたと言えると思います。この最新のカーブを大事にして聞いていきたいと思います。
6.CONEQによる小型スピーカの音質改善効果
それからもう一つ話しておきたいのは、CONEQには小型スピーカの音質改善に 絶大な効果があるという事です。
先日メインのシステムの補正を行って頂いた際に、ついでに小口径ウーファーの ELACの小型スピーカ「330CE」も補正してもらったのですが、その際のCONEQの ON/OFFの違いは非常に大きかったですね。もともと初めてCONEQを試聴したのが、 パソコン用小型アクティブスピーカーの劇的な音質改善だった事を考えると、小型 スピーカの音質改善により効果を発揮するのではと感じました。
口径の大きいウーファーのゆったりした大型スピーカ、例えるなら「3000ccクラスの 車をゆっくり転がしても割りと深々とした安定感がある」様なスピーカ。「排気量の大きい 車をゆったり走らせる」というような音が私は個人的に好きです。
一方、「ライトウェイトスポーツカー」、いうなれば「リッターカーを俊敏に走らせる」様な 小型スピーカの方が好きって言う人もいる訳です。そのような小型スピーカのシステムを CONEQで音響パワースピーカーを測定してフラットに補正してみると、大型スピーカを 髣髴させる様なゆったりしたスピーカに変貌しましたね。このような小型スピーカの方が 音質改善の度合いとしては大きいと感じました。
日本では居住空間の問題もあって、現在は圧倒的に小型スピーカの市場が大きいので、 そのような小型スピーカのユーザーにはこの技術の効果は本当におススメしたいと思います。
7.安心して使えるイコライザ
最近「ステレオサウンド」誌などのハイエンドオーディオの雑誌でも「イコライザ特集」が 組まれるなどイコライザを薦めている動きが出てきた訳ですが、これは良い傾向だと思います。
部屋の不備をイコライザだけで補正するということ、これが出来ればよいのですが、 正直非常に難しい。更に言えば、聴感だけで自分の好みの音を作るというのは、正直 不可能に近い。 部屋の伝送周波数特性をリスニングポイント1点で測定して、それで全てが分かった という事も無理な訳で、さらにそれに基づいて無数に在る小さなピークを数バンドで 補正するのも無理な訳です。そういった事だけで作られた音を聞いて、これまで良い 音と思うような音を聞いた事が無い。
一方、CONEQはせいぜい1次反射までは取り入れるにしても、基本的にはスピーカ から放たれる直接音だけを測定して、その音響パワー周波数特性を補正するということで、 非常に再現性がありますよね。まあ完全にどのポジションでも一律ということでは無い にしても、大体どこで聴いても大丈夫。
「再現性がある」ということは本当に重要なんですよね。「こんなに安心して使える イコライザは他に無いよ」という事を私は声を大にして言いたいですね。
8.民生機器(テレビやホームオーディオ)への展開について
先程小型スピーカでのCONEQの効果が絶大という話をしましたが、音響パワー 伝送的に劣るものほど、その音質改善効果は大きいので、ミニコンポなどには 最適だと思います。
ハイエンドオーディオユーザーと違って、テレビやミニコンポの一般ユーザーに 難しい測定や補正を押し付けたところでうまく行くのは難しい訳だから、そのような 使用されるスピーカが固定されていて分かっているような製品は、セットメーカーが CONEQを使って予めそのスピーカに完全に最適化したイコライジングを追い込んで 組み込んで置けば最良ですよね。
特に今はテレビの音はどんどん悲惨になっていく一方だから、CONEQを導入 していないメーカーがあるという事が不思議でしょうがないです。一部のテレビや ミニコンポにはReal Sound Lab社以外のイコライジング技術を採用しているものも あることは知っていますし、音も試聴した事がありますが、比較してもCONEQが No.1であると自信を持って言えますし、薄型テレビやミニコンポなど音響的に 厳しい条件に取り組まなければならない製品には、これほど安心して使える イコライジング技術は無いでしょう。
確かに音響的にハードウェア面で厳しい深刻なほど劣っていれば、フラットに 出来ないものあるでしょうが、そういった場合でもCONEQのターゲットカーブを 適用させて、その条件化でベストな音質に追い込む事が出来る事も大きな利点ですね。
それに繰り返しにはなりますが、最近のテレビの音質の劣化は悲惨です。 まともな音、つまり「男性アナウンサーの声はちゃんと男性の声に聞こえる」テレビ じゃないといけないと思いますし、現代のような無愛想な時代においては生々しい音、 リアリティをちゃんと伝える事が重要だと思っています。
テレビメーカーはCONEQの導入をきっかけに、ユーザーがきちんとした音を楽しめる ように、ハードを含めた音質の向上を検討する機会になればと思いますので、 とにかく全テレビメーカーの音響のエンジニアにはこの効果を体験してもらいたいと 考えています。
山本浩司先生プロフィール
雑誌「HiVi」の前身である「SOUND BOY」誌からステレオサウンド社編集部に在籍。 「HiVi」の編集長、季刊誌「ホームシアター」編集長を経て、フリーランスのオーディオ評論家となる。